【法学入門】「適憲」の意味と、あえてハードルの高い「違憲判決」を狙いに行く4つのケース
法律トラブルやニュースを見ていると、単に「行政の対応が違法だ」と争うだけでなく、法律そのものをターゲットにして「憲法違反(違憲判決)」を求めにいく特殊な裁判を目にすることがあります。この記事では、「適憲」という基本用語の意味から、原告があえて重大な勝負(違憲訴訟)を仕掛ける理由とその具体例までを分かりやすく解説します。
1. まずは基本から:「適憲」と「違憲」の意味
「適憲(ていけん)」とは、ある国の法令(法律や条例)や公的な行為が、その国の憲法に違反していない状態を指す言葉です。一般的には「合憲(ごうけん)」と同義語として使われます。
- 適憲(合憲): 法令や処分などが、憲法の趣旨や規定に反しておらず「有効」であること。
- 違憲(いけん): 法令や処分などが憲法に違反しており、原則として「無効」となること。
※適憲・合憲の対義語は「違憲」となります。
2. 違法を通り越して「違憲判決」を取りに行くケースとは?
日本の裁判所は、具体的なトラブルの解決にどうしても必要な場合にしか違憲審査を行わない「付随的違憲審査制」をとっています。そのため、違憲判決を勝ち取るハードルは非常に高くなっています。
それにもかかわらず、原告や弁護団が「違法」を通り越して「違憲」を狙いに行くのは、「社会の仕組みや不条理なルール(法律)そのものを根本から変えたい(法改正を迫りたい)」という明確な目的がある場合です。主に以下の4つのケースでこの戦略(戦略的訴訟)がとられます。
ケース①:法律(制度)そのものが人権侵害の原因である場合
行政機関は「現行法」の通りに動いているため、行政の対応自体を「違法」と責めることができないケースです。ルールそのものをひっくり返さなければ解決しません。
- 同性婚(結婚の平等)訴訟: 現行の民法などが同性婚を想定していないため、役所は婚姻届を受理できません(役所の対応は違法ではない)。そのため、「同性婚を認めない法律の規定そのものが、法の下の平等(憲法14条)などに反する」として違憲を争っています。
ケース②:時代遅れの法律により深刻な差別や不利益が生じている場合
法律が作られた当時は合理的だったとしても、現代の価値観に照らして明らかに不条理な格差が残っているケースです。国会が自発的に動かないため、司法の力を借ります。
- 婚外子の国籍・相続差別訴訟: 過去に「結婚していない両親の間に生まれた子」への差別規定が最高裁で違憲とされ、即座に法改正へつながりました。
- 夫婦別姓訴訟・性別変更要件: 個人の尊厳や幸福追求権(憲法13条)を根拠に、時代に合わなくなった法律の規定を違憲とするよう求めています。
ケース③:法律に従うと、あまりにも不条理な刑罰・不利益を強いられる場合
法律の条文をそのまま適用すると、個人の権利が理不尽に剥奪されたり、あまりにも重すぎる刑罰が科されたりしてしまうケースです。
- 尊属殺重罰規定違憲判決(1973年): 実の親を殺害した場合、通常の殺人罪よりはるかに重い刑罰しか選べない法律(尊属殺)がありました。壮絶な虐待の末に親を殺害してしまった事件で、あまりに酷な量刑を避けるために弁護側が違憲を訴え、最高裁初の違憲判決を勝ち取りました。
ケース④:議会の「1票の格差」が是正されない場合
選挙区による人口比率の差が大きすぎ、国民の参政権が平等に扱われていないケースです。
- 選挙無効訴訟: 弁護士グループなどが選挙のたびに「この格差のまま行われた選挙は違憲・無効だ」と訴えます。裁判所から「違憲状態」や「違憲」の判決(イエローカードやレッドカード)をもらうことで、国会に選挙区の区割り改定を強制的に迫る手段として使われています。
3. まとめ:なぜ「違法」ではなく「違憲」なのか?
単に「行政の処分が違法だ」と争うだけなら、その場限りの処分取り消しや、目の前の少額の賠償(解決金)で終わってしまいます。
しかし、最高裁判所で「違憲」の判断が下されれば、国会はその法律を改正・廃止せざるを得なくなります。
いわば、目の前の雨(違法な処分)を傘でしのぐのではなく、雨雲そのもの(違憲な法律)を社会から消し去るために、あえてハードルの高い違憲判決を取りに行く大きな勝負が仕掛けられるのです。